2004年04月09日

恐怖の記憶と再生感

やわらかい日差し。暖かい風。舞い散る桜吹雪。

この季節を感じると、肌が体が思い出す感覚があります。毎年この風
を感じるたびによみがえる鮮烈な思い出。今でもそれは、頭ではなく、
体で覚えているのです。深く深く魂に刻み込まれてしまった記憶。

それは。。。

そう、春の柔道合宿。

えっ?それがどうしたって?

この風が呼び起こす春の合宿の記憶。それがこんなにも幸せな春の日
と裏腹な背筋が凍るような体験と強烈に結びついていることが、いったい
「アレ」を体験したこのない人にどう理解されようというのでしょう。

でも、あえて書きたい。今だから書ける「アレ」のことを。

高校のときに入っていた柔道部の合宿。別に強豪校というわけでは
なかったので、普段は厳しいながらも割合と淡々と練習を積み重ね
ていたのですが、この「合宿」だけは、まったくの異次元ワールド。

3月にはいると、暖かくなる季節に伴って、部内の緊張感が静かに
高まっていくのを感じます。先輩たちは戦々恐々。後輩たちは、なん
となくまだ遠足気分。

そんな不穏な空気を伴ったまま、3月最後の1週間くらいで、千葉県
の海沿いの町に5泊6日で合宿をしにでかけます。朝トレ→朝ごはん→
うたた寝→午前練習→昼食→昼寝→午後練習→夕食→夜ミーティング
というのが基本のパターン。これだけ聞くと、まぁそんなもんかと思
われるでしょう。そうでしょう。

が。

しかしその内容は、みなさんの想像を200%超えている!!!
と私には断言できる。

合宿となると、いつもは顔を見せないさまざまなOB/OGの方々が代わる
代わる訪れます。そして、当然現役は現役同士ではなく、OB/OGさまと
乱取りなどをさせていただくわけです。

そして。。。

体の大きさにかかわらず、120キロはあろうかと思われるOBさまのお相手
をすることになったりする。

この場合、やはり恐ろしいのは寝技です。巨漢のOBさまに乗っかられ、
肺を押さえつけられるとどうなるか・・・。絞め技で落とされそうに
なる寸前でいたぶられるとどうなるか・・・。

はっきり言って、人間の声とは思えない声がでます。獣の声に似た
その狂ったような音。耳をふさぎたくなるような、ありえない声が、
いつもリーダーとして部を率いている主将の喉から搾り出される。
無意識で、「ごめんなさい、ごめんなさい」と謝りだす人。本気で
道場の中を逃げ回る人。

人としてのプライドが容赦なく削り落とされるその瞬間。

身の毛のよだつような声を耳にしながら、その声を聞くだけでショッ
クで恐怖で泣き出しそうになりながら、それがわが身でなかったこと
にどこかでほっとしている自分。

人間としてのすべてが試される。

甘えは通用しない。
きれいごとは通用しない。
本質でないことは通用しない。

しかし、そんないわゆる「しごき」的な合宿にどんな意味があるのか?
先生やOB/OGさまに言わせると、
「自分の限界を知り、越え、押し広げる」
ということに尽きる。

私も、当時やっているときには、「なにが限界を広げるだっ!」と
思っていました。そんなことのためにここまでやる合宿が正当化さ
れていいものかと。

しかし。

今は、ちょっと違う感じ方をしています。というのも、あの合宿を
乗り越えて以来、どんなに辛いことがあっても、どんなに悲しいこ
とがあっても、どんなに大変な試練を目の前にしても。私はこうい
う風に自分に問いかけるようになりました。

「今、この目の前の試練に立ち向かうのと、明日合宿に行くこと
になるのと、どちらかひとつ選び取れと言われたら?」
と。

私は、まず間違いなく目の前の試練を「喜んで」選択します。

「限界を知り、越え、押し広げる」

それは、辛いこと、悲しいこと、大変なこと、理不尽なこと、悔しい
こと、そんな突然訪れる負のできごとに対しての耐久を高めることに
他なりません。

私は、いわゆる体育会系は大っ嫌いだったし、今でもスポ根にはまっ
たく共感しないのですが、実体験としてこの経験が今の私の一部を
形作ったことにはかなり感謝しています。

そして、最後に合宿のもうひとつ大事な効用。それは、千葉から帰っ
てくると「この世界の美しさ、素晴らしさに涙が出るほど感動できる」
ということ。桜の花の咲くのを見ては、暖かい風を感じては、「ああ、
なんてこの世は美しいんだ!」とほんとうに心の底から思うのです。

それは、もしかしたら深刻な病気から生還した人が感じる「再生感」
と似ているかもしれない。

この季節が巡ってくるたびに、この風を感じるたびに、ふと心によみ
がえる底知れない恐怖の感覚と再生感。

私はきっと一生この感覚とともに生きていくのだろう。

投稿者 遙 : 2004年04月09日 08:13 | トラックバック (3)
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